マインドフルネスを理解するための脳科学の基礎【2】感情のコントロールと扁桃体

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私たちの脳の中には、「扁桃体」という細胞があります。

たとえば、あなたが我を失って誰かを怒鳴りつけているとき、あるいは、誰かに言われた一言にイラっときたせいで暴飲暴食してしまっているとき、あなたの脳内では、おそらく、扁桃体が大活躍しています。理性的な判断を忘れ、衝動的な感情に支配されてしまっている状態です。

この状態で振る舞ってしまうと、あなた自身や、周りの人をとても不愉快にしてしまいますし、最悪の場合、大切な誰かとの関係がこじれてしまう危険さえありますよね。

この現象は、扁桃体が、まるでハイジャック犯のように脳内を乗っ取ってしまうことから、「扁桃体のハイジャック」とも呼ばれていて、弱肉強食を生き抜くために受け継がれてきた原始時代の名残とも言われています。

しかしながら、現代社会では、この機能は、明らかに、邪魔な場面のほうが多いですよね。

今回の記事では、「頭に血が上ってしまう」この現象のメカニズムをご紹介します。

大切な人間関係を壊してしまったり、キャリアを棒に振ったりしてしまうことなく、感情と上手に付き合きあっていくために、少しでもあなたの生き方のヒントになれば幸いです。

1. 大脳新皮質のはたらき

(主な脊椎動物の脳の比較)

私たちが、普段、性欲や食欲や、怒りや不安などをコントロールしながら、人間として思慮分別のある社会生活を送ることができるのは、大脳新皮質のおかげです。

まずは、通常の生活を送っているとき、この大脳新皮質がどのような働きをしているのか、簡単にご説明します。

1-1. 刺激を認識する(視床→感覚野)

視覚や聴覚、それに、触覚や体内からの感覚は、間脳にある「視床」を経由した後、大脳新皮質にある「一次感覚野」という場所に届きます。

(リンゴ→目→視床→一次視覚野)

「一次視覚野」、「一次聴覚野」、「一次体性感覚野」を一括りにして「一次感覚野」と呼ばれます。また、「一次」というのは、「感覚野」の中でも最初に情報が届く領域を指します。

たとえば、

  • 視覚情報・・・目→視床→一次視覚野
  • 聴覚情報・・・耳→視床→一次聴覚野
  • 体性感覚情報・・・皮膚や体内→視床→一次体性感覚野

※「体性感覚」とは、皮膚や体内から感じられる、触覚や温度感覚などの情報を指します。

といった具合です。

ただし、「一次感覚野」に情報が届いた段階では、まだ、大雑把な認識しかできません。たとえば、リンゴを見たとしても「何かの物体」としか分からない状態です。

1-2. 理解し、考える(感覚野→連合野)

「感覚野」に届いた情報は、その後「連合野」に送られます。

(リンゴ→目→視床→一次視覚野→連合野)

「連合野」は、記憶を保存している「海馬」と繋がっているため、「赤い物体」という情報が「テーブルに置かれたリンゴという果物」というように、認識ができるようになります。

「連合野」は、主に、次の3つの領域に分けられます。

  • 頭頂連合野・・・「空間的な情報」を認識します。(例:「テーブルに置かれた」といった情報。)
  • 側頭連合野・・・「形や色の情報」を認識します。(例:「赤くて手のひらサイズの物体」といった情報。)
  • 前頭連合野・・・推測、判断、調整、意思決定などを行います。(例:「あれはリンゴ、今すぐ食べたい、食べようか、後にしようか・・・」など。)

1-3. 行動を起こす(連合野→運動野)

その後、「連合野」は「運動野」へ情報を送ります。「運動野」は、行動を起こすための命令を出す場所です。

(リンゴ→目→視床→一次視覚野→連合野→運動野→脳幹)

たとえば、「リンゴを手にとって食べる」というような命令が、「運動野」から「脳幹」を経由して、全身の筋肉に対して情報が伝達されていき、実際に「リンゴを手にとって口に運ぶ」という行動に至るわけです。(※このような運動は、特に「随意運動」と呼ばれます。)

このように、「大脳新皮質」とは、外部や体内からの情報を認識して、意味を理解し、行動に移す、といった、私たちが普段当たり前に行っている人間的な活動の「実行センター」なのです。

2. 扁桃体のはたらき

それでは、感情は脳の中でどのように生まれ、私たちはそれをどのように認識するのでしょうか。実は、感情に関する活動の実行センターは「扁桃体」だと考えられています。

簡単に言えば、私たちの脳には「扁桃体」があるおかげ(せい)で、何かを見たり聞いたりした時に、それが「何で」「どこにあって」「どんな意味で」などが理解できなくても、感情的に反応してしまうことができるのです。

※「扁桃体」は、特に、「恐怖」や「不安」や「怒り」などのネガティブな感情に関わっています。逆に、「快感」を求める生理的な欲求や、「報酬」を求めて「やる気」が出たりするのは、大脳基底核の一部「側坐核」が中心的な役割を担っています。

2-1. 扁桃体とは

(“amygdala” by Life Science Databases(LSDB). on wikimedia.org 改変, CC-BY-SA-2.1-jp)

扁桃体とは、側頭葉の内側にある小さな細胞の集合体で、左右にひとつずつあります。アーモンドに形が似ていることから、英語では「Amygdala(アミグダラ)」と表現されます。多くの解説書では、「大脳辺縁系」の中心的な部位として、「海馬」とともに紹介されることが多いようです。

2-2. 2つの情報処理ルート

たとえば、あなたが森を歩いていて、「緑色でドクロを巻いている物体」を見たとしましょう。

(緑の矢印が”幹線ルート”、赤い矢印が”迂回ルート”)

幹線ルート

先ほど述べたとおり、通常、視覚的な情報は、「目→視床→一次視覚野」という流れで伝わっていきます。

迂回ルート

しかし、感覚情報を処理するルートはもう一つあり、それが、「目→視床→扁桃体」という「大脳皮質を完全に迂回するルート」なのです。

したがって、「緑色でドクロを巻いている物体」という情報は、扁桃体にも伝わることになります。

幹線ルート、つまり、「一次視覚野」を経由するルートも、「連合野」を通って、結局は扁桃体に届くことになるのですが、迂回ルートからくる情報の方が、当然、扁桃体に早く到着することになります。

2-3. 恐怖の連想ゲーム

扁桃体には、「強烈な情動」とそれに関する「記憶の断片」とが結びついて保存されていると考えられています。

(恐怖記憶の想起)

たとえば、海で恋人と別れ話をしたことがある人は、海に行くと失恋の記憶や心の痛みを思い出すでしょう。また、戦地から帰還した兵士は、花火の音から銃声音を連想し、戦場の恐怖が蘇ってしまうといったPTSDに苦しむ人もいます。

こういった脳内の現象には、扁桃体が関わっていると考えられています。

扁桃体に情報が伝わると、

「緑色でドクロを巻いている物体」=「ヘビ」=「危険」=「緊急事態」

という、恐怖の連想ゲームを始めるのです。

2-4. 緊急事態宣言(”扁桃体のハイジャック”)

こうして、「緊急事態」を察知した扁桃体は、「逃げろ!」という命令を、脳や身体全体へ発令することになります。

(ストレスの長期化は恐怖のフィードバック・ループを起こし、扁桃体をさらに活性化させて悪循環します。)

具体的には、扁桃体は・・・、

ストレス反応を起こす

「視床下部」へ命令し、ストレスホルモンを分泌させます。その結果、血圧や心拍数が上昇したり、筋肉が緊張したりといった、自律神経の反応が起こります。

これが、いわゆる「Fight or Flight Response(闘うか逃げるか反応)」です。

注意回路をハイジャックする

大脳新皮質の「注意回路」をコントロールします。その結果、「ヘビ」に注意が集中し、「ヘビ」に関する記憶が蘇ってきます。

感情として意識する

「一次体性感覚野」が、身体で起きている自律神経の反応を感知し、「緊急事態発生!!」という情報が、「大脳新皮質」を駆け巡ります。その結果、「恐怖」や「不安」といった意識的な感情が生まれ、さらに扁桃体を刺激し続けます。

このようにして、扁桃体が生み出す「恐怖」や「不安」という感情が、脳と身体を完全に支配してしまうのです。これこそが、「扁桃体のハイジャック」と呼ばれる現象です。

3. 迂回ルートのメリット・デメリット

3-1. 迂回ルートのメリット

扁桃体の素早い判断は、危険から身を守るためには重要な機能です。

なぜなら、「目→視床→一次視覚野→連合野→・・・」といった「大脳新皮質」を経由した情報を待たずに、「逃げる」という行動を起こすことができるからです。

「緑色でドクロを巻いている物体」→「ヘビか、それとも木の葉が反射してそう見えるだけなのか・・・??」→「もっとよく近づいてみよう・・・」

極端に言うと、このような思考を行うのが「大脳新皮質」なのです。

ところが、命の危険が迫っている、まさにその瞬間、そんな風にのんびり考えているヒマはありませんよね。

3-2. 迂回ルートのデメリット

ところが、扁桃体の判断は、早い代わりに不正確なのです。

つまり、「緑色でドクロを巻いている物体」が、実際には、「木の葉が反射しているだけ」だったとしても、「逃げろ!」という判断を下します。

要するに、「逃げ遅れるよりはマシ」というわけです。

確かに、頻繁に身の危険に遭遇する原始時代においては、この機能は重要だったかもしれません。

しかし、現代社会では、たとえば、ある日、満員電車で靴を踏まれたからといって、毎朝そのときの恐怖や怒りをいちいち思い出して、頭に血を上らせていては、仕事に行けませんよね…。

4. 前頭前野のはたらき

(“Evolution of the prefrontal cortex, from rodent to human.” by lecerveau.mcgill.ca, translated into japanese by was_a_bee. on wikimedia.org, CC BY-SA 3.0)

普段、扁桃体の暴走にブレーキをかける働きをしているのが、「前頭前野」と言われています。

「前頭前野」は、大脳皮質の「連合野」の一つなので、「前頭連合野」とも呼ばれます。英語では、「Prefrontal Cortex(前頭前皮質)」と表現され、「PFC」と略されます。

他の動物の脳と比較しても、「前頭前野」はヒトにおいて最も顕著に発達している領域です。そのため、人として理性のある行動や、未来への計画、過去や自己への内省、注意の選択と集中、などといった高度な思考は、ほとんど、「前頭前野」が中心的な役割を担っていると考えられています。

4-1. 扁桃体をコントロールする内側前頭前野

前頭前野の中でも、特に、内側の領域(=「内側前頭前野」)は、扁桃体のコントロールに直接関わっていると考えられています。

4-1-1. 恐怖条件付け

(The LeDoux Lab より引用)

ラットを使った「恐怖条件付け」という有名な実験があります。

簡単に言えば、音と電気ショックを連続してラットに与え続けると、ラットは音を聞いただけで恐怖反応を示す様になる、というものです。恐怖反応というのは、立ちすくんだり、血圧が増加したり、といった反応のことです。

これは、ラットの扁桃体が、「音」=「電気ショック」=「痛み」=「恐怖」という風に関連づけて記憶を保存するからだと考えられています。

3-1-2. 消去できない恐怖

しばらく繰り返して恐怖反応を学習させたあと、今度は電気ショックを与えるのを止めて、音だけを聞かせ続けると、ラットは通常、恐怖反応は示さなくなります。

これは、「音」を聞いて反応しても「電気ショック」が起こらないこと、を学習するからだと考えられています。

ところが、内側前頭前野に損傷を与えたラットは、電気ショックを止めたあとでも、ずっと恐怖反応を示し続けたそうです。

このことから、内側前頭前野は、扁桃体による恐怖反応にブレーキをかけていると考えられています。

(参照:Morgan MA, Romaski LM, LeDoux JE. “Extinction of emotional learning: contribution of medial prefrontal cortex. Neurosci Lett 163: 109-113”

つまり、内側前頭前野の機能を失ったラットは、恐怖反応を止めるブレーキを失くしてしまったために、「恐怖の原因」である「電気ショック」が去ったことが分かっていても、「音」に反応せずにはいられなくなってしまったわけです。

4-2. 注意をコントロールする外側前頭前野

前頭前野の外側の領域(=「外側前頭前野」)は、「注意をコントロールするネットワーク」の中心的な役割を担っていることが分かっています。

このネットワークには、「前帯状皮質」「頭頂連合野」などが含まれた、脳の広い範囲が含まれています。

その機能は、「ワーキングメモリー」「中央実行系」「実行機能」などなど、様々に似通った言葉で説明されていて、その内容を集約すると、おおまかに、次の4点にまとめることができます。

注意コントロール

注意を向けるべき対象に固定化したり、注意を向ける対象を切り替えたりできる機能です。たとえば、冷蔵庫に残っているケーキを無視して、勉強に集中できる能力です。

セルフコントロール

衝動や欲求にブレーキを踏む、行動の抑制機能です。たとえば、冷蔵庫のケーキを思い出したとしても、それを我慢できる能力です。

ワーキングメモリー

一時的な記憶。「一度に覚えられる数字の数は、だいたい7個ぐらい」という、「マジカルナンバー7±2」という仮説は有名です。たとえば、誰かの電話番号を聞いて、手元にメモがなかった場合、メモ用紙を取りにいくまでの時間、それを覚えておける能力のことです。

目標設定と意思決定

未来に目標を設定し、今やるべき行動を選択できる能力です。たとえば、1年後の海外旅行に最低100万円必要なので、今月から毎月10万円ずつ貯金しよう、といった思考能力のことです。

つまり、私たちが日常で、

  • ケータイを気にせず仕事や勉強に集中できたり・・・
  • 甘い食べ物が我慢できたり・・・
  • 子どもの遊ぶ様子を見つつ公園で世間話ができたり・・・
  • ダイエットやトレーニングを継続できたり・・・

といった活動が可能なのは、この機能があるおかげ、というわけです。

そして、この「注意ネットワーク」は、扁桃体にブレーキをかけている「内側前頭前野」とも相互に繋がっています。

このような、前頭前野での「内側領域」と「外側領域」の共同作業により、恐怖や不安や怒りが脳をハイジャックしてしまう前に、ブレーキを踏み、上手く注意を切り替えて、理性的な判断を下すことが可能なのです。

5. 前頭前野 vs 扁桃体

(前頭前野 vs 扁桃体)

このように、私たちの脳内では、常に、「前頭前野(理性) vs 扁桃体(恐怖)」という綱引きが繰り広げられています。

ただ、これまでのところ、健康な成人の脳であったとしても「扁桃体(恐怖)」が勝ってしまうケースが多いようです。つまり、ただでさえ、人は、恐怖や不安に支配されやすいのです。

考えてみると、様々な人間関係のトラブルも、紐解いていくと、「恐怖」という感情が発端となって、「不安」や「怒り」を生んでいるケースがほとんどですよね・・・。

たとえば、

  • パートナーの浮気を疑ってしまうのも、「別れて孤独になること」への恐怖からだったり・・・
  • 上司が部下を怒鳴りつけてしまうのも、「上司がその上司から怒られること」を恐れているからだったり・・・。
  • スーパーではしゃぐ子どもを叱ってしまうのも、「周りの他人からの視線」を気にしすぎているからだったり・・・。

しかも、ただでさえ、そんな脆い「前頭前野(理性)」の機能は、ストレスや加齢によって、いとも簡単にダメージを受けてしまうようなのです。

ということは、逆に考えると、前頭前野の機能を鍛えることができれば、感情のコントロールができるようになり、人間関係や職場でのストレスやトラブルも、上手く乗り切ることができるようになる・・・??

そう思いませんか??

実は、マインドフルネス瞑想の訓練が、この「前頭前野」の注意コントロール機能を強化できるらしい、ということが、科学的に実証されつつあります。

(マインドフルネスを理解するための脳科学の基礎【3】へ続く)

*主な参考文献*

『エモーショナル・ブレイン―情動の脳科学』ジョセフ ルドゥー (著)

『EQ~こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン (著)

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