マインドフルネスに関する本やwebサイトを読んでいると、時々、「食べる瞑想」のやり方が書かれていることがあります。「1粒のレーズンを、穴があく程眺めたあと、ゆっくり手に取って、口に運んで、噛んで、飲み込んで、食道から体内に取り込まれていく、その様子を観察する・・・」っていう、アレです。
英語では、「Mindful Eating(マインドフル・イーティング)」とも呼ばれる、この独特な瞑想について、「あまりよく分からないし、取っ付きにくいし、なかなかやってみる気が起きない・・・」なんていう人が、実は多いのではないでしょうか??
でも、「食べる瞑想」を何度かやってみると分かります。
「私(オレ)って、いつも、こんなにも急いで食べていたんだ・・・」とか、「食べているのに、食べることに全く集中していなかった・・・」とか、「一口のご飯で、こんなにもお腹と心を満たすことができるんだ・・・」などなど、非常に有意義な「発見」や「気づき」があります。
「今という瞬間を生きること」の本質的な核心に触れる体験が、あなたの中で起こります。
そして、その「発見」や「気づき」は、トラブル続きで慌てふためいているときなどに、あなたの心を邪魔な雑念から救い出してくれ、忙しい毎日の中で、今この瞬間を味わう時間を作り出してくれます。
本当かな・・・?? という半信半疑なあなたへ。今回の記事をご参考に、是非、試してみてくださいね。
目次
1. 「食べる瞑想」とは
- 急いで? それとも、ゆっくり?
- 味わいながら? それとも、がむしゃらにパクパクもぐもぐ?
- 心配事を頭に巡らせながら? テレビを見ながら? それとも、ケータイを片手に・・・???
あなたが「食べる」という行為に臨む態度は、そのまま、あなたがあなた自身の人生に対する態度を表しているかもしれません。
1-1. レーズン・エクササイズ
1979年に、ジョン・カバット・ジンという分子生物学の博士が、瞑想やヨーガを取り入れた医療センターを設立し、のちに「マインドフルネスストレス低減法(Mindfulness-based Stress Reduction, MBSR)」として知られるようになる、ストレス低減プログラムを開発しました。
(参照:「マインドフルネスとは何か?その正しい意味が知りたい人へ」第4章)
その、MBSRの正式なプログラムの一番最初に、「レーズン・エクササイズ(Raisin Excercise)」というものが実施されます。
これが、「食べる瞑想」と呼ばれるものです。
1-2. なぜ、一番最初にやるのか?
ストレス・クリニックで行っているプログラムを開始すると、まず患者たちは驚きます。なぜなら、瞑想とは何か普通ではない、神秘的なことをすることに違いないと思っているからです。(略)こうした思いこみを直ちにとり除いてもらうために、私たちは全員に三粒のレーズンを配り、自分が実際にしていることに注意を集中し、瞬間瞬間を体験しながら、一粒ずつ食べてもらうということを行います。私たちはこれを“食べる瞑想”と呼んでいます。
<<ジョン・カバット・ジン『マインドフルネスストレス低減法』p.46>>
「瞑想」というと、多くの人は、このようなイメージを頭の中に浮かべると思います。
確かにこれは、仏教における伝統的な「瞑想」のスタイルです。
しかし、私たちの多くは、仏教僧として暮らしているわけではなく、一般社会で仕事をして収入を得ることで、生活していますよね。
つまり、私たちが、マインドフルネスを実践することで叶えたいことは、仕事、家族、人間関係、目標達成・・・、など、生活の中にあります。
そんな、あなたや私にとって、「マインドフルネスの本質」を最も体験しやすい方法が、「食べるという普段無意識に行っている行為を、意識的に行う」という「食べる瞑想」なのです。
自分が何かをしている最中に、自分がしていることを意識できるようにするのが、「マインドフルネス瞑想法」の本質です。
<<ジョン・カバット・ジン『マインドフルネスストレス低減法』p.48>>
2. 「食べる瞑想」のやり方
それでは、「食べる瞑想」のやり方を二通りご紹介します。
2-1. フォーマル・バージョン(正式)

<<参照:『マインドフルネスストレス低減法』p.46>>
ステップ1. レーズンを観察することに注意を集中する
まるで自分が生まれて初めてレーズンを見た、というようなつもりになります。そして、レーズンを見て、手に取ったときに、色、形、感触、香りなど、五感から感じ取れる全ての感覚に注意を向けます。
つまり、食べる前に、レーズンそのものと、心の中に涌き上がってくる感覚とを、まず観察するのです。
ステップ2. 手にとって口に運ぶ自分の動きを観察する
手の動き自体を目で追うのではありません。
「手でレーズンをつかむ→口に運ぶ→唇に触れる感触を感じる→口の中で唾液が湧き出たらそれを感じ取る→・・・」
といった一連の流れを通して体験できる、五感で感じる感覚や心に浮かぶ感情の全てに意識を持っていく、ということです。
ステップ3. 十分に噛んで飲み込み、身体の変化を感じ取る
噛んでいるあいだ、口の中に広がるレーズンの風味を充分に味わいます。
さきほど眺めていた一粒が、細かく噛み砕かれ、消化されて、あなたの身体のわずかな一部になるわけです。
その一連の体験で起きる自分の感覚を観察します。
2-2. アレンジ・バージョン(一例)

あまりにも取っ付きにくいし、どうしても抵抗がある、という人向けに、私が普段行っている、「食べる瞑想〜おにぎりを味わうアレンジバージョン〜」をご紹介します。
レーズン1粒、よりも、おにぎり1個のほうが、日本人の我々にとっては、なじみがあると思います。
要するに、わざわざレーズンを買ってくる必要はなく、コンビニのおにぎりでも充分なのです。
ステップ1:食べる直前、口に運ぶ前に、しばらくおにぎりを観察する。
コンビニのおにぎりであれば、開封するところから始めます。香り、手に取った感触、お米がおにぎりとして一体となっている様子、など、五感で感じる全てを、まず観察します。
ステップ2:軽めの一口を口の中に入れ、ゆっくり噛んで味わって、飲み込む。
次々と口の中に入れたくなる衝動が心の中に湧いてきたら、それに気づいて感じ取りながらも、その衝動には従わないようにします。
必ず、最初の一口を最後まで咀嚼して、ゆっくりと飲み込み、それがのど元を通り過ぎていくまでは、次の一口を口にしないしようにしてください。
噛んでる間、味や香りを感じたら、それを観察します。
また、噛みながら、食べることから注意がそれて、心(頭)の中で心配事や考え事を始めたら、それに気づいて、食べることに意識を戻します。
ステップ3:2〜3回呼吸を観察し、次の一口を口にする。
急ぐ気持ちにならないように、一口食べてから、次の一口を口に運ぶまでの間に、一旦、呼吸を落ち着けるようにします。
それを癖付けることで、「次々に食べたい」衝動をコントロールすることができます。
3. 効果
「食べる瞑想」を行うことで、一体何の効果があるのか。少しでもやってみると分かります。
「次々と口の中に入れたくなる衝動が心の中に湧いてきたら、それに気づいて感じ取りながらも、その衝動には従わない。」
これがいかに困難なことか・・・。
3-1. 直後に得られる主な気づき
たとえば、私(オレ)って普段・・・、
- 「食べている」のに「食べる」ことに全く集中していなかったな・・・
- どうして、次から次へと、「急いで食べまくって」いたんだろう・・・。
- 一粒のお米が、こんなにも風味豊かに味わえるものだったなんて・・・。
- おにぎり1個で、こんなにもお腹と心を満たすことができるんだ・・・。
などなど、多くの気づきがあると思います。
私の場合は、「いつも常に急いで食べていた」という発見が、最も衝撃的で、ショッキングでした。
普段の食事が、まるで、チョコレートやポテトチップスを、次から次へと、「あ〜止まらん」なんてつぶやきながら、もぐもぐパクパク、どんどん口に運んでいるときの食べ方と、全く同じだったのです。
しかも、頭の中では、アッチコッチ、とめどなくいろんなことを考えながら・・・。
※実際、このような食べ方をしていると、知らない間に食べ過ぎていたり、消化不良を起こしたりします。
3-2. 習慣化することによる効果
ふと思い出したときに、普段の食事をなるべく「食べる瞑想」に近い形で実践していくことで、だんだんと効果を実感できると思います。
3-2-1. 食習慣の改善
私の場合は、食習慣そのものが変わりました。
私は、以前から、朝食をそもそも抜いて、急ぎ足で仕事の準備をして家を出る、という毎日だったのですが、朝食を摂るようになりました。
Macやケータイなどから離れ(テレビは、私はそもそも持っていません)、音楽も流さず、静かに、ただ、朝食を味わうためだけの時間として、必ず朝、15分ほど過ごすようになりました。
その結果、心が落ち着けて一日を乗り切れる日が増えたように思います。
3-2-2. 精神状態の改善
食習慣の変化は、そのまま、精神状態の改善につながります。
- 「アレ、今何取りにきたんだっけ・・・??」ってことがなくなる。
- 「今、彼に言われたことはショックだけど、とりあえず気持ちを切り替えよう」
- 「この仕事、納期は今日中か・・・。でも、定時で帰りたい。時間内で、焦らず落ち着いて、ベストな成果を上げる努力をしよう。」
というような精神状態を、なるべくキープできるようになれます。
言い換えるなら、「自分の軸を持ちながらも、他人を受け入れる余裕を持てる、というような健全な人間関係になれる」といった感じでしょうか。
4. 実践のタイミング
4-1. 朝食で
穏やかで落ち着いて頭がスッキリした状態で一日を始めることができます。仕事のパフォーマンスが上がります。
4-2. 昼食で
午前中働いた頭や体全体を休め、落ち着きを取り戻すことができます。
4-3. 夕食で
「今日も一日、いろん〜〜〜なことがあったけど、とりあえず今は忘れて、この目の前の食事という大自然からの恵みを、存分に味わおう。」自然に、そんな気持ちになり、一日の疲れのリフレッシュや、身体を休める睡眠に向けて、スムーズで落ち着いた流れを作ることができます。
5. まとめ
以上、マインドフルネスストレス低減法の正式プログラムのひとつ「食べる瞑想」についてご紹介してきました。
「食べる」ことは、もちろん、私たちが生きていく上で、毎日欠かせない行為です。
しかし、放っておくと、どうしても、衝動的で、機械的で、何かをしながら急ぎ足で済ましてしまいがちですよね。
今回の記事が、あなたの食習慣や人生に対する向き合い方をより良くするためのきっかけになれば、本望です。
それでは、ありがとうございました。
(ご質問やご相談などは、eメール:hello@mindful-music.jp もしくは、コメント欄に書き込みいただけましたら、お返事させていただきます。)